3年C組9番、佐伯虎次郎くん。生徒会の副会長であり、部活の男子テニス部では副部長も務める。得意科目は社会と国語。趣味は部員たちとの海あそび。学校の中でよく訪れる場所は、校庭の海寄りのベンチ。外見は、私見も含まれるが、おそらく一般的に見ても、格好良いと言われる方だろう。性格は優しく、しっかりしていて、話も面白い。

・・・・・・そんなところかな、私が知ってる佐伯くんは。そして、大体のみんなが知ってる佐伯くんでもあるはず。と言うか、そうでなければ嫌だ。もちろん、この中に、みんなが知らないことがあるのはいい。でも、その逆はダメ。許せない。みんなが知ってるのに、私が知らないなんて状況、私には我慢できない。もちろん、佐伯くんと仲が良い人――例えば、テニス部の人たちとか――が、私以上に佐伯くんを知っているのは仕方ないし、それはいいの。・・・でも、私と同じくらいの人が佐伯くんを知っているのは嫌。

そう思うけど・・・。でも、私は佐伯くんと付き合っているわけじゃない。だから、そんなことを思っていい立場じゃないのはわかっている。わかっているけど・・・、その気持ちを消すことはできない。どうしても、嫌だと思ってしまうんだ。
しかも、それは親友に対しても考えてしまうのだから、私はどうかしてると思う。何も、彼女を信用していないということではない。だけど、私のことを知ってくれているのだからこそ、佐伯くんとは話さないで、と考えてしまう。・・・それに、の良さなら、私が1番知っている。にそんな気が無くても、佐伯くんの方が・・・・・・・・・。
これは強すぎる嫉妬心、身勝手な独占欲。わかってるから、こんな自分が嫌になる。そして、自信が無くなる。そうすれば、より嫉妬は強くなる。・・・まさに、悪循環だね。そして、その循環は止まることなく・・・、今日も回り始める。


教室に入ろうとした私は、佐伯くんの姿を見つけて足を止めた。何も気にすることはないと思ったけど、その先にはが居た。佐伯くんはと楽しそうに何かを話している。それを見て、私は教室に入ることをやめた。・・・とりあえず、トイレにでも行って来よう。
きっと、そのまま教室に入った方が良かっただろう。だって、いつも通りにに挨拶をして、その流れで自然と佐伯くんにも話せただろうから。でも、突然すぎて、何を話すかとか心の準備ができていなかったし。それに、に対して嫉妬してる自分を見られたくなかったし。あと・・・・・・、と佐伯くんの邪魔かもしれないし。
自分でそこまで考えて、泣きそうになった。・・・ちゃんと、普段通りに見えるようにしなくちゃ。そう思って、ゆっくり教室に帰った。案の定、そこに佐伯くんの姿は、もう無くて。それで良かったはずなのに、少し残念だとも思ってる私は、本当に訳がわからない。



、おはよう。」

「おはよう、。」



いつも通りの挨拶。
・・・・・・ねぇ、。それだけ?私に言うことは無いの?さっきまで、佐伯くんと喋ってたじゃない。それを私に言うべきじゃないの?
・・・って、また、そんなことを考えてしまった。にそんなことを言う義務は無いのに・・・。それに、聞きたいのなら自分で聞けばいいじゃない。それなのに、先にを責めてしまった自分が情けない。



。さっき、佐伯くんと話してた?」

「うん。話してたよ。」



軽くそう言ったに、また私は苛立った。・・・だって、佐伯くんと話せることは、そんなに簡単なことじゃないもの。だから、何でもないことのように言ったが許せなかった。
・・・いや、だから。違うよ!佐伯くんと話せないのは、私が佐伯くんを好きで緊張してしまうから。悪いのはじゃなくて、私なんだ。・・・・・・ごめんなさい、のことも大好きなんだよ?



「・・・って言うか、。なんで、それを知ってるの?見てたわけ?」

「うん・・・。教室に入ろうとしたら、見えた。」

「でも、その後すぐに来なかったじゃない。・・・どうして?」

「・・・先にトイレに行こうと思って。」

「トイレぐらい我慢しなさい。せっかく佐伯くんと話せるチャンスだったのに・・・。」



ほら。やっぱり、は私のことを考えてくれてる。だから、を責めるのは、とんだ御門違いというわけだ。本当に、ごめんなさい・・・。



「でも、緊張しちゃうし・・・。」

「あのねぇー・・・。それでも喋らないと、進展するものもしないわよ。わかる?」

「ご、ごめん・・・。」

「私に謝ったって、しょうがないでしょ。」

「うん・・・。」



それはわかってる。だけど、それはあくまで私が望んでいることであって。佐伯くんからすれば、迷惑な話かもしれない。さっきだって、もしと佐伯くんの間に入っていれば、むしろ私は邪魔だと思われたかもしれない。だから・・・・・・。
そんなことを考えていたら、が私の頭を軽く小突いた。



「なっ・・・!・・・?!」

「今、『でも・・・』とか『だけど・・・』とか、マイナスのことを考えたでしょ。」

「う・・・。」



まさに、の言うとおりで、私は何も言い返せなかった。



「今後、マイナス思考は禁止。わかったわね??

「は、はい・・・。」

「うん。それでいいのよ、。」



かなり脅しに近い言い方(と言うか、脅しそのものだ・・・)だったけど、の笑顔から、ちゃんと私のことを思って言ってくれてるんだってわかった。
そこまで来て、さっき、が佐伯くんと話していた、ということを思い出した。・・・そうだ。まだ、どんな話をしたのか聞いてなかった。



「ところで、。さっき、佐伯くんは何の用事だったの?」

「んー・・・。今日、うちのクラスに音楽の授業はあるか、って。」

「あるね・・・。それで?」

「それだけよ。」

「それだけ??」



佐伯くん、それを聞いてどうするつもりなんだろう・・・?そんなことを聞いて、何かに役立つのかな・・・?今の所、佐伯くんがそれを聞いて得られる、と考えられるものは・・・・・・・・・と話せること。
だって、このクラスに音楽の授業があるか、なんて誰にでも聞けたはず。でも、の席は窓側。つまり、わざわざ教室の中の方にまで入って来なければならなかった。それなのに・・・・・・。



ー・・・?今、何考えてた??」

「えっ?!えぇ〜っと・・・。」

「約束したよね?マイナス思考は禁止って。」

「はい・・・。すみませんでした・・・。」



あれを約束と言えるのかは、疑問だけど・・・。でも、そんなことを言う勇気は無く、私は素直に従うことにした。



「とにかく。佐伯くんがどうしてそんなことを聞いたのか、私も不思議に思って聞いてみたけど・・・。それには上手く逃げられちゃったわ。・・・もし、が聞いてほしいって言うなら、機会を見て、また佐伯くんに聞いてみるけど?」



それは・・・聞いてほしい。でも、これ以上、と佐伯くんに喋ってほしくないと思う。・・・本当、そんなことを考える権利なんて無いはずなのに、ね。
・・・って、こんな考えしてたら、またに怒られる!!現に、は私の方を訝しげに見ている。早く前向きな答えをしないと!



「うん!聞いてほしい。」

「りょーかい。」

「でも、!そのときは、私も一緒に聞きに行きたい。」



本当は、少しでもと佐伯くんが話すのを許したくない、という気持ちもあるんだけど・・・。それは間違った考えだし。でも、やっぱりと佐伯くんが2人で話をすると考えると、あまり気分が良くなくて、自分も行くことにした。
・・・じゃあ、さっきだって、早く教室に入ってれば良かったのかもね。・・・まぁ、それは緊張とか邪魔になるんじゃないかとか、そういう思いがあったから、無理だったわけだけど。とにかく、今度は心の準備をして行けるわけだから、まだマシだと思う。



「わかった。・・・それじゃ、後で聞きに行こうか?それこそ、音楽室に行くまでに、佐伯くんのクラスの前を通るし・・・そのときでいい?」

「うん。お願いします。」

「任せといて。」



その言葉から、は本当に頼りになる、とても良い親友だと思った。・・・それなのに、疑ったりしてゴメンね?でも、そんなに素敵な人だからこそ、疑いたくもなるんだよ・・・。
・・・って、マズイ、マズイ。また、がこちらをじーっと見ている・・・!そう、マイナス思考は禁止なんだ!!私は慌ててニッコリと笑うと、もニッコリと笑ってくれた。



「今度こそ、も喋れるといいわね。」

「うん、そうだね。頑張るよ。」

「うん!その意気よ!」



・・・どうやら、フォローは間に合ったみたい。


次は、ようやく音楽の授業。今まで、私はとてもそわそわしていたと思う。佐伯くんに会えるんだという期待と緊張、そして、が喋っているときに嫉妬心を表情に出さないでいられるかという不安なんかが入り混じっている所為で。



、準備できた?」

「・・・準備はできた。けど、心の準備は・・・。」

「さ、行くわよ。」

「さらっと無視?!!」



相変わらずのの黒さが発揮され・・・・・・・・・ごめん、何も考えてないから。本当、何も考えてませんから。だから・・・こっちをじっと見るのは、やめてください、さま。
えぇっ・・・と。とりあえず・・・、は私の臆病な気持ちを払い飛ばしてくれるかのように、私の発言を軽く流してくれた。そのおかげで、私は無理矢理・・・決心がつき、音楽室へ行く途中の佐伯くんのクラスへ向かった。



ー。私は、そんなに喋らないけど・・・。」

「うん、わかってる。でも、流れで少しぐらいは喋りなさいよ?」

「もちろん、そうするつもり。でも・・・、私も会話の中に入っていいの?」

「・・・ねぇ、。また、約束忘れたの?」

「違うよ!これはマイナス思考じゃなくって・・・。えぇっと・・・。」

「マイナス思考じゃなくて?」

「あの・・・。ほら!やっぱり、喋るのに勇気がいるわけで・・・。だから、に『入っていいよ』って言ってもらえたら、少しはマシになるかなーって。」

「ふぅ〜ん。ま、いいわ。そういうことにしといてあげる。・・・で、もちろん入っていいに決まってるでしょ。」

「・・・うん、そうだよね。ありがとう。」

「別にお礼を言われるようなことはしてないわ。それじゃ、入るわよ。」

「え・・・?わっ!ちょ・・・!!」



今まで会話の中に入る、入らないという話をしてたから、一瞬わからなかったけど・・・。気が付けば、もう佐伯くんのクラスの前じゃない!!ってことは、今のの「入る」は・・・・・・なんて考えてる内に、は目の前のドアをガラガラと開けた。
ちょっと待ってよ、!!そう言いたいのは山々だったけど、教室に入ってしまっているに、そんな声をかけられるわけがなかった。私は全身に力を込め(と言うか、自然に力が入ってしまいつつ・・・)、逃げ出したい気持ちを抑えて、の後を追った。
佐伯くんは、私たちが入ったドアの少し前の方にいた。つまり、佐伯くんは廊下側の席に座っており、傍の窓をぼんやりと眺めているようだった。そんな佐伯くんの横顔は、本当絵になると言うか・・・。やっぱり、カッコイイなぁって思ってしまった。佐伯くんの視線の先にある、窓さえ羨ましい。



「佐伯くん、ちょっといい?」

「ん?・・・あれ、さん。それに・・・さんまで。一体どうしたの?」



佐伯くんの声で、自分の名前を呼んでもらえた。そのことは、とても嬉しかった。そして、佐伯くんの視線もこちらに向けられて、恥ずかしいけれど、とても幸せに思った。
・・・だけど。私の名を呼ぶまでに、少し間があった。それは単に驚いただけだと考えられる。・・・それでも、私には別の考えがどんどん浮かぶ。やっぱり、には会いたかったけど、私には会いたくなかったんじゃないか、とか。私なんてどうでもいい存在なんじゃないか、とか。
本当は話しかける勇気なんて無かったけど、そんな考えが浮かんだおかげで、次の言葉が出てきた。



「私はの付き添いだよ。」

「そっか、そうなんだ。」



私のことは気にしなくていいよ。それが真意だった。



「それで・・・さん、俺に何か用事でもあるのかい?」

「うん、ちょっと聞きたいことがあって、ね。佐伯くん、今朝うちのクラスに来たじゃない?で、音楽の授業のことを聞きに来た。」

「そうだね。・・・次が音楽なんだよね?もしかして、それをわざわざ言いに来てくれたのかな?」

「そうじゃないんだけど。佐伯くんがどうして、そんなことを聞いたのか不思議に思って。それで、音楽室行くついでに聞きに来たわけ。」

「理由?そうだね・・・。この廊下を通る姿を見たかった、から。」

「それって・・・?」



私は付き添い、気にしなくていいって言ったのに、思わず口を挟んでしまった。でも、気になってしまったんだもの。だって、今の佐伯くんの言い方、まるで・・・・・・。



「俺、好きな人がいるんだよね。その人の姿を少しでも見たくて、さ。」



予想通りの言葉に、私の心拍数は急上昇する。・・・それは決して期待してるから、なんかじゃなくて、不安や苦しみの所為だった。



「ねぇ、佐伯くん。ついでだから、その人の名前を教えてよ。」

・・・?!」



やめて・・・!そんなの聞きたくない。たしかに、最初から期待なんて無かった。それでも、実際に希望を絶たれるのは辛いの・・・。騙し騙しやっていきたい時もあるの・・・。だから、お願い・・・。
そう思うけど、そんなことを言えば、途端に私の想いは佐伯くんにバレてしまうために、私は何も言えなかった。



「どうかしら、佐伯くん。」

「いきなり、そんなことを言われても・・・。さすがに、ちょっと困るよ。」

「じゃあ、私が一発で当てれたら、教えてくれない?」



きっと、は私の名前を出すだろう。そうすれば、佐伯くんの好きな人が私なのか私じゃないのかということだけでもわかる。そして、私の恋は終わるんだ。・・・・・・だって、私なわけがないもの。でも、そんなを止める手段は思いつかなかった。だから、佐伯くんがの条件を飲まないことを祈るばかりだったけれど・・・。



「・・・そこまで言うなら、仕方ないね。いいよ。さんが当てられたら教えるよ。」



相変わらず、爽やかに佐伯くんは答えてくれた。・・・今は、そんな優しさ必要ないよ・・・・・・。



「ありがと。それじゃ、言うわよ。・・・その前に、私の推理。まず、誰でもわかるのは、佐伯くんの好きな人が私たちと同じクラスであるということ。そのクラスに、佐伯くんは今朝訪れた。そこで、できれば好きな人と喋りたいと思うのが普通じゃないかしら。まぁ、たまに誰かさんみたいに緊張して喋れないという人もいるけれど。」



それって、私のことじゃない。と心の中で思った。・・・さすがに、声に出して言えないし。それに・・・。やっぱり、佐伯くんは喋りたかったんだ・・・と・・・・・・そんな考えが浮かんだから。



「佐伯くんのことを詳しく知ってるわけじゃないから、わからないけど・・・。少なくとも、今朝私と喋ってるときの佐伯くんは不自然だったわ。少しでも話を伸ばそうとしている様子だったから。」



・・・・・・・・・やっぱり、のことが好きなんじゃない・・・。、よく自分で言えるね。は佐伯くんのこと好きじゃないから、そんなにあっさり言えるのかな・・・。



「ここから考えたんだけど、佐伯くんは好きな人の為に、積極的に行動する方なんだと思う。・・・まぁ、普段は違うのかもしれないけれど、今朝はその気だったはず。・・・で、重要なのは、この後ね。私は、とある大切な人のために、佐伯くんのその後の行動を少し見ていたの。」



大切な人・・・・・・・・・もしかして、私のこと、かな?そうだとしたら、すごく嬉しい。今は、純粋に喜べる状況じゃないけれど、やっぱり嬉しいよ。ありがとう、



「佐伯くんはすぐに教室からは出ず、わざわざ遠回りしてゆっくりと教室を出て行った。・・・それは、佐伯くんが誰かを待っていたから、じゃないかしら。もしかすると、教室に入って来たときも、その人を探したのかもしれない。けれど、見つからなくて、仕方なく私の所へ来た。その理由は、ただ一つ。その人が私と最も近しい人物だと佐伯くんが思ったから。つまり。今、ここに居る。彼女が佐伯くんの待っていた人であり、今この廊下を通る姿を見たかった人。そして、佐伯くんの好きな人。・・・違うかしら?」



さっきまで落ち込んでいたのに、の推理(?)を聞いて、何だか期待しそうになった。・・・だって、の言ったことに矛盾は無さそうなんだもん・・・・・・。でも、そんなことあるはずがない。そう言い聞かせて、期待を持たないようにした。期待しちゃったら、後が辛いものね。



さん、よく見てたね。うん、その通り。大正解だよ。ちなみに、教室に入って行った時の行動も大当たり。」

「ありがとう。」



にこやかに話す2人を見て、私は・・・・・・って、私は?!えっ?!!どうしたらいいの、私??!



「・・・?何か言うこと無いの?」

「え?!え、っと・・・。何を言えばいいの、??」

「はぁ・・・。・・・。私も、アンタのそういうとこ好きよ。でもね、佐伯くんが可哀相だから。早く答えてあげたら?」



呆れると、少し不安げな顔でこっちを見ている佐伯くん。・・・私がとるべき行動って・・・・・・。



「あの・・・。私は・・・佐伯くんのこと、好き、です・・・。」



・・・こういうこと??



「私は、じゃない。私も、でしょ。」



そんな私に対して、はまた呆れ気味で、すかさずツッコミを入れた。まだ混乱している私。・・・私も、ってことは・・・・・・佐伯くんも?



「ありがとう、さん。さんと仲の良いさんが『一発で当てれたら』って提案をしたときは、もしかして、さんも・・・?なんて期待したんだけど。俺の言葉を聞いても、さんの態度はあまり変わらなかったから、自惚れだったのかなって心配しちゃったよ。」



そう言って笑った佐伯くんの言葉は、やっぱり私たちが両思いなんだって自覚するのに充分で・・・。さすがの私も、ようやく事態を理解した。



「えっ?!本当・・・??!っていうか、はいつから気付いてたの?!」

「私はと違って、佐伯くんのことばかり見てるわけじゃないから、今日になって確信を持てたって感じだけど。それでも、前からそうかもしれないとは思ってたわね。」

「俺からすれば、気付かない方が不思議なんだけどな。俺、結構さんに話したり、目で追ったりしてたから。・・・気付かなかった?」

「そう言われれば、目が合う回数とか多かったかもしれないけど・・・。それは、私がよく佐伯くんを見ているからだと思ってたし・・・。」

「それは嬉しいな。これからも、俺のことだけを見ていてよ。俺もさんだけを見ているから。」



あの佐伯くんの爽やかな笑顔が私に向けられていて、かつ、こんな素敵なことを言われている・・・。何だか、夢見心地とでも言うのか、すごく恥ずかしくて、嬉しくて・・・恍惚とした気分に襲われた。



「悪いけど。イチャつくのは、後にしてくれる?もうすぐ、私たちは音楽室に行かなきゃならないから。」



そんな中、の言葉で慌てて我に返った。



「そうだった!それじゃ、ありがとう、佐伯くん。今から音楽室に行ってくるよ。」

「うん、わかった。頑張っておいで。・・・それで、授業後に、また声かけに来てね。」

「うん!」



私は満面の笑みで答えていたに違いない。だって、とても嬉しかったんだもの。今までの私は、佐伯くんのことを気にしながらも、そんなことをしてもいいのかという思いに駆られていた。だけど、今の言葉とか「俺だけを――」って言葉とかから、それが許される関係になれたんだって思えたから。それに、これからはもっともっと佐伯くんのことを知っていけそうだと思えたから。



「ありがとう、。」

「別に?私は思ってたことを言っただけだもの。」

「そっか。・・・・・・私、佐伯くんのこと、もっと知りたいな。」

「佐伯くんもそう思ってるわよ。」

「そうだといいね。」

「・・・・・・そうね。たぶん、振り向けば、その答えもわかるような気がするけど。」

「え・・・?」



に言われて、後ろを振り向けば。まだ佐伯くんは、窓からこちらを見ていてくれていた。そして、私と目が合うと、ニッコリと笑いながら手を振ってくれたから、私も笑顔で手を振り返した。



「ほら、ね。」



前を向いたまま、はそう言った。・・・やっぱり、ってすごいなぁ。何か特別な力でも・・・。



。私に特別な力は無いからね。」



・・・・・・・・・はい、無いみたいです。













 

サエさんの誕生日のとき、佐伯夢を書きたいな〜と思い、それからネタが思いつき、少しずつ書いて・・・出来上がったのが、この作品です!初なので、許してください・・・;;

束縛する人が好きだというサエさんは、嫉妬を一身に受け止めてくれるだろう!という話を書きたかったのですが。片思い中のヒロインが嫉妬すると、どんどん暗くなっていっちゃうので、お友達をギャグっぽくしようとしたら・・・・・・最後も持って行かれちゃいました!(汗)

('09/02/20)